同じ仲間で、ここまで違う“格”と“用途”
彫刻に使われる木には、それぞれ「役割」と「格」があります。
柔らかく扱いやすい木もあれば、技術と覚悟がなければ手を出せない木もあります。
その中でも、イチイ(オンコ)とカヤは、同じ系統に属する木であり、立ち木もよく似ていますが、用途・価格・扱われ方・彫刻材としての位置づけが大きく異なる、非常に象徴的な存在です。
本記事では、
- 誠文堂新光社『【原色】木材加工面がわかる樹種事典』の客観的データ
- 木彫家 植草等雲先生の長年の実体験に基づく知見
この二つの視点を重ねながら、
イチイとカヤという二つの高級木材の本質を整理していきます。

イチイ(オンコ)とはどんな木か
① 歴史と象徴性
イチイは古くから特別な木として扱われてきました。
等雲先生によれば、
仁徳天皇が笏に最適な木として正一位の位を与えた
という伝承が残されており、「一位(いちい)」という名もそこに由来すると言われています。
また、飛騨の高山一刀彫に使われている木としても知られ、
日本の彫刻文化と深く結びついた樹種です。
② 書籍データから見るイチイの物性(客観情報)
『【原色】木材加工面がわかる樹種事典』より:
- 比重:0.45~0.62(水は1.0)
- 硬さ:3上(檜は2~3)
- 色味がよく、加工しやすい
- 針葉樹の中でも良材
- 切削・ロクロ加工ともに作業性が良い
- 仕上がりが美しい
- 時間経過とともにオレンジ色 → 濃い赤みへと色調変化する
▶ 美しさと加工性を両立した、完成度の高い彫刻材
③ 彫刻材としての現実(等雲先生の視点)
しかし、彫刻材としてのイチイは“美しいだけの木”ではありません。
- 彫りたては茶色がかった肌色
- 1~2ヶ月で暗褐色に変色
- 割れが深く入りやすい
- 横削り・逆目で裂けやすい
特に彩色については、
彩色をするにはあまり適していません
とされ、
素木仕上げを前提とする素材であることが明確です。
仕上げにおいては、
- ペーパー仕上げは可能
- 最終的にニス等で塗装
- その後に仕上げ研磨
という工程が前提になります。
カヤとはどんな木か
① イチイと同系統の“香木”
等雲先生は、カヤを
一位の仲間
と位置づけています。
最大の特徴は、
- 強く甘い香り
- 香木としての価値
用途としては、
- 碁盤
- 将棋盤
が圧倒的に有名です。
② 書籍データから見るカヤの物性(客観情報)
『【原色】木材加工面がわかる樹種事典』より:
- 比重:0.53
- 硬さ:3
- 将棋盤・碁盤の最高級素材
- 針葉樹としては硬い部類
- 黄色味の強い色調
- 甘く強い匂い
- 水に強い
- 乾湿変化に強い
- 白蟻に強い
- 弾力性がある
▶ 耐久性・復元性・耐環境性を備えた“構造材的高級木材”
③ 彫刻材としてのカヤ(等雲先生の評価)
彫刻材としての評価は非常に現実的です。
- サクッと小気味よく削れる
- 全体的に硬め
- 細工向き
- 木口はかなり硬い
しかし、
あまり流通していない
相当単価が高い
キロ単価販売
よっぽどの事が無い限りは使わない
という位置づけです。
▶ 「使える木」ではなく「知っておくべき木」
イチイとカヤの比較整理
| 項目 | イチイ(オンコ) | カヤ |
|---|---|---|
| 系統 | 同系統 | 同系統 |
| 比重 | 0.45~0.62 | 0.53 |
| 硬さ | 3上 | 3 |
| 主用途 | 彫刻・工芸 | 碁盤・将棋盤 |
| 香り | ほぼ無し | 強い芳香 |
| 彫刻適性 | 高いが割れ注意 | 加工性良だが高価 |
| 流通性 | 極めて低い | 極めて低い |
| 単価 | 高 | 非常に高 |
彫刻家の視点から見た結論
イチイとカヤは、
- 同じ系統の木でありながら
- 文化的役割も
- 用途も
- 市場価値も
- 彫刻材としての立ち位置も
まったく異なる道を歩んできた木です。
イチイは、
▶ 「使うための高級材」
カヤは、
▶ 「象徴としての高級材」
という位置づけが、極めて明確です。
まとめ
彫刻材とは、単に「彫れる木」ではありません。
- 育った環境
- 歴史
- 文化
- 用途
- 市場構造
- 職人との距離感
それらすべてを含めて、初めて“素材の格”が決まります。
イチイとカヤは、
彫刻材という世界の奥行きを象徴する存在といえる木です。

