はじめに|桐は「やさしい木」だが、油断は禁物
彫刻材として「桐(きり)」と聞くと、
軽い・柔らかい・扱いやすい
そんなイメージを持つ方も多いかもしれません。
確かに桐は、日本の木材の中で最も軽く、最も柔らかい材です。
しかしその一方で、実際に彫ってみると「簡単そうで難しい木」でもあります。
今回は、
- 誠文堂新光社『【原色】木材加工面がわかる樹種事典』に記された客観的なデータ
- 木彫家・植草等雲先生が長年の制作と指導の中で語ってくださった実感
この二つを合わせて、彫刻材としての桐の本当の姿を整理してみたいと思います。
桐という木の基本的な性質(書籍より)
『【原色】木材加工面がわかる樹種事典』では、桐について次のように解説されています。
- 硬さ:1(檜は2〜3)
- 比重:0.19〜0.40(水は1)
- 国産材では最も軽く、最も柔らかい木
- ただし「柔らかい=簡単」ではなく、加工時は慎重な対応が必要
- 乾燥は容易で、乾燥による狂いや暴れは少ない
- 吸湿性に優れる
- 軽さを生かし、様々な用途に用いられてきた
数値を見るだけでも、桐がいかに特殊な木であるかが分かります。
とくに比重0.2前後という軽さは、彫刻材の中でも際立っています。
等雲先生が語る「桐という木の正体」

桐は「木」ではなく、草に近い存在
等雲先生は、桐をこう説明してくださいました。
「桐は正確に言うと草の仲間で、中心に空洞があり、20年ぐらいで用材として使えます」
一年で2〜5cm太くなることも珍しくなく、成長は非常に早い。
このスピード感も、他の彫刻材とはまったく違う特徴です。
日本では
- 南部桐
- 会津桐
といった産地名がよく知られていますが、もともとはアジア特有の木で、中国原産とされています。
軽く、柔らかく、熱を通しにくい
桐は内部に多くの空気を含んでいるため、
- 非常に軽い
- 熱が伝わりにくい
- 燃えにくい
という性質があります。
そのため古くから、
桐箪笥や金庫の内張りなど、実用性の高い用途に使われてきました。
彫刻材としての桐|最大の特徴は「柔らかさ」
刀の扱いで仕上がりが決まる
桐の彫刻で最も重要なのは、刃物の使い方です。
「もの凄く軟らかいので、刀を薄刃によく研いで、斜めに滑らすように削らないと、ボソボソになってしまいます」
力を入れると、切れるのではなく潰れる。
そのため、檜や楠とはまったく違う感覚が求められます。
大材は少ないが、張り合わせが基本
桐は大径木が少なく、大きな一枚材はあまり期待できません。
「大きな木はあまり無いので、張り合わせて使って下さい」
桐は接着剤が非常によく染み、接着性が高いため、
昔から貼り合わせて使うのが当たり前でした。
彫刻材としても、この特性は大きな利点です。
へこみやすいが、回復する不思議な木
桐はぶつかるとすぐにへこみます。
しかし――
「水を含ませると、ほとんどふくらんで戻ります」
これは桐ならではの面白い性質です。
ただし、完成後の作品では表面処理が重要になります。
仕上げと用途|そのままでは壊れやすい
昔は、
- 面(お面)
- 獅子舞の獅子頭
などにも桐がよく使われていました。
ただし、
「漆を塗るなどして、硬くしてから使わないと壊れやすい」
という前提がありました。
軽さと柔らかさを活かし、仕上げで強度を補う――
それが桐彫刻の基本です。
現代の桐材事情と、初心者教材としての桐
現在、良質な桐材は
桐の専門店でないと手に入りにくく、価格も高めです。
一方で、等雲先生はこうも話してくださいました。
「先日中国産のものを買ってきましたが、目が少し粗く、多少硬めなぐらいで、ほとんど変わりはなかったです」
品質差はありますが、用途によっては十分使える材もあります。
そして現在、先生の教室では――
「初心者の教材として使っています」
軽く、刃の感覚が分かりやすい桐は、
彫刻の基本を学ぶには非常に良い木でもあるのです。
まとめ|桐は「教えてくれる木」
桐は、
- 日本で最も軽く、柔らかい
- 乾燥しやすく、狂いが少ない
- しかし、彫り手の技量がそのまま表れる
そんな、優しくも厳しい木です。
初心者にとっては「刃物の使い方」を、
経験者にとっては「仕上げと構造」を、
静かに教えてくれる――それが桐という材なのだと感じました。

