木彫の世界で「檜(ひのき)」は、特別な存在として語られることの多い木です。
建築材としての評価が高い一方で、彫刻材としては扱いが難しく、誰にでも勧められる木ではないとも言われています。
今回は、誠文堂新光社『【原色】木材加工面がわかる樹種事典』の客観的な記述と、木彫家 植草等雲先生が長年の制作経験から語ってくださった話をもとに、檜という木の本当の姿を整理します。
檜の基本的な性質(書籍より)
書籍では、檜について次のようにまとめられています。
- 硬さは「2〜3」
- 比重は「0.34~0.54」(水は1)
- 建築材としては最高級品
- 地域差や、天然林・人工林の違いによって硬さや木目に個体差がある
- 仕上がりが非常にきれいで、光沢が出やすい
この「個体差の大きさ」が、檜を彫刻材として難しくも、奥深い存在にしている要因の一つです。
→誠文堂新光社『【原色】木材加工面がわかる樹種事典』はこちら
日本の檜は一つではない(先生の話より)

先生のお話でまず強調されていたのは、檜は日本特有の木であり、台湾檜は別種だという点です。
日本の檜は大きく分けて、
- 国有林に生えていた自然木(官木)
- 植林によって育てられた民間林の木(民木)
の二系統があります。
民木は、成長を早めるために日当たりなどの条件を良くして育てられており、木質が非常に硬いのが特徴です。これは建築材としては理想的ですが、彫刻には必ずしも向きません。
一方、官木と呼ばれる自然木の中でも良質なものは、
- 木目が非常に詰んでいる
- 意外なほど軟らかい
- 刃物が吸い付くように入る
という、彫刻家にとって理想的な性質を持っています。
年輪と「当て材」に注意する
檜には、同じ一本の木の中でも性質が大きく異なる部分があります。
特に注意が必要なのが、南向きで年輪の荒い部分で、これは「当て材」と呼ばれます。
当て材は硬いだけでなく、割れが入りやすいため、保管や制作時には細心の注意が必要です。
先生は、彫刻に使う檜として
- 樹齢200〜300年以上
- 少なくとも100年以上
の材を勧めており、若い木は「人間と同じで癖が出やすい」と表現されていました。
良い檜の見分け方
材木を選ぶ際の目安として、先生が挙げていたポイントは非常に具体的です。
- 木肌は薄いピンク色〜肌色
- 濃い茶色や白っぽすぎるものは避ける
- 年輪が詰んでいて、1cmに7〜10本以上あるものが最上
- 年輪の一部が茶色く変色しているものは避ける
この条件を満たす部分には節があることも多く、節の位置をどう避けるかも彫刻では重要になります。
木曽檜という名前について

「木曽檜(備州檜)」とは、木曽の御嶽山周辺で採れる檜のみを指します。
現在は樹齢の若い木も木曽檜として流通していますが、これについて先生は「時代の流れとして仕方がない」と語っていました。
実際に木曽の営林署で、直径2メートルを超える切り株を見た体験談からは、かつての檜のスケールと、現在の資源状況の変化が伝わってきます。
彫刻する際の最大の注意点
檜を彫るうえで、先生が何度も繰り返していた言葉があります。
「決して逆目を彫らないこと」
檜は繊維が
- 非常に細く
- 長く
- 柔軟で丈夫
という特性を持っています。そのため、逆目や無理な横削りをすると、裂けたり割れたりしてしまいます。
また、ペーパー仕上げは繊維が毛羽立ちやすく、檜には不向きです。
よく切れる刃物で、逆目を避け、細かく仕上げる。
これができたとき、檜は他の木では得られない、品のある最高の仕上がりを見せてくれます。
まとめ:檜は「選ばれた人のための木」
檜は、
- 材の見極め
- 彫り方
- 刃物の状態
すべてを作り手に要求する、非常に厳しく、しかし正直な木です。
単価も高いため、先生が「初心者には勧めない」と言われるのも納得できます。
それでも、条件の整った檜を正しく彫れたとき、
その作品は静かで、凛とした美しさを宿します。
檜はまさに、彫刻家の成熟度を映し出す木なのかもしれません。

