産業の現場で磨かれた技が、いま“教室”に生きている
第1〜3話で描いてきたように、等雲先生は長く産業用試作品の世界で生き、数百人規模の職人を率いてきました。
高度な造形力、素材を見抜く目、そして人を育てる経験――。
そのすべてが、今は木彫教室で生徒一人ひとりに受け継がれています。
かつて流行や市場の変化に翻弄されながらも、大手企業からの支援話すら断り、ものづくりを守る道を選んだ先生。
その「形を変えて技を残す」という思いが、いま確かな形として息づいている場所こそ、この教室なのです。
仏師の世界に縛られず「作りたいもの」を作る教室

等雲教室の最大の特徴は、「仏像に縛られない木彫教室」であることです。
厳しい徒弟制度もなければ、作るものを制限されることもありません。
これは、先生が長年ビジネスとして木工・木彫に関わり、多様な造形物を生み出してきたからこそできる指導です。
実際に教室では、次のような幅広い作品が生まれています。
- 仏像、仏頭
- 能面
- 馬のオブジェ
- 絵馬
- 獅子頭の置物
- そして「木のネクタイ」まで
木と向き合いながら、自分が本当に作りたいものを形にできる――。
この自由度こそ、等雲教室が多くの人に愛され続ける理由のひとつです。
年齢も経験も関係ない。95歳から始めた人も
教室を始めたきっかけは、「高齢になり、社会と関わる場を失っていく男性のために居場所を作りたい」という先生の思いでした。
しかし今では、女性のほうが多く在籍しており、年代も実に幅広いです。
初心者から熟練者まで一緒に学び、ゆっくりと木と向き合っています。
中には、95歳で木彫を始めた方もいます。
木彫は、何歳からでも挑戦でき、続けた時間がそのまま作品となって残る、一種“知的な趣味”なのです。
習熟度に合わせた、絶妙な指導
等雲先生の指導は、「必要なときに、必要なだけ手を貸す」スタイルです。
- 初心者には、刃物の扱い方から丁寧に
- 中級者には、形の見方や木目の使い方
- 上級者には、ほんの一言の助言だけ
ただ手伝うのではなく、生徒が自分の力で完成に近づいていけるように導いてくれます。
木の香りと、ゆったりと流れる時間

教室に入ると、まず木の独特の香りが広がります。
削るたびにふわりと漂うその匂いは、どこか懐かしく、心が落ち着きます。
時間の流れも独特です。
- 皆が黙々と集中しているとき
- 先生の昔話に耳を傾けながら作業する時間
- 誰かが持ってきたお菓子を囲んで、笑い合うひととき
木彫教室と聞くと「静かで厳しい場」を想像されるかもしれませんが、ここにはあたたかい交流があります。
教室に並ぶ作品が物語る“伝承”
工房の棚には、生徒たちの完成作品がずらりと並んでいます。
動物、仏像、能面、小物、抽象作品――。
そのどれもに、作り手の時間と思いが詰まっています。
木彫は、古来から日本人が素材と向き合い、祈りや願いを形にしてきた伝統文化です。
また、司馬遼太郎『梟の城』や五木寛之『風の王国』などの小説にも、仏師でない人物が仏を彫る描写が登場します。
木彫は、知的で奥深い“文化的趣味”でもあります。
受け継がれていく技。未来へつながる木彫の時間
等雲先生が歩んできたものづくりの歴史は、時代の波によって大きく揺れ動きました。
しかし、その技術は決して消えることなく、今も教室で確かに生きています。
ここで木と向き合う透明な時間は、生徒にとっての癒しであり、挑戦であり、人生を豊かにする経験です。
そして、その静かな時間の積み重ねこそが、未来へと技をつないでいく力になっています。
等雲木彫教室は、伝統と自由が調和する、唯一無二の学びの場としてこれからも続いていきます。

